








作品概要
- タイトル: 山本直樹最新作品集 第三篇「五時」エピローグ「わたしはおうちに帰ることにした」
- 著者: 山本直樹
- 出版社: 太田出版
- 掲載誌: FxComics
- ジャンル: 学園もの
あらすじ
「この家、二階もあるんですよね」「本が重なってて足の踏み場もないんだ」わたしはおうちに帰ることにした――弊社刊『田舎』もロングヒット中、巨匠・山本直樹による新作連載の第三篇、最終話!フレッシュでエロティックな逸品たちを是非ご堪能ください。
感想・みどころ
巨匠・山本直樹が描く連載最新作品集、第三篇「五時」のエピローグ「わたしはおうちに帰ることにした」が満を持して登場だ。ロングヒットを続ける『田舎』に連なる作家性を色濃く受け継ぎながら、今作は連載の締めくくりとして静かな余韻を残す一編に仕上がっている。山本直樹先生の作品を追ってきた読者にとっても、初めてこのエロ漫画に触れる読者にとっても、見逃せない完結編と言えるだろう。
「二階もあるんですよね」に滲む生活感とエロス
冒頭の「この家、二階もあるんですよね」「本が重なってて足の踏み場もないんだ」という何気ない会話が、この作品の空気を決定づけている。派手な煽り文句ではなく、誰かの部屋を初めて訪れたときの、あの落ち着かなさと好奇心が入り混じった感覚から物語は始まるのだ。本が積み上がった部屋というディテールひとつで、そこに住む人物の生活の手触りが立ち上がってくる。山本直樹作品らしい生活実感の描写は、性描写に至るまでの間合いを引き延ばし、読者にじわじわとした期待感を抱かせる仕掛けになっている。エロ漫画において「そこに人が暮らしている」というリアリティは、シチュエーションの説得力を大きく左右する要素であり、本作はその基礎工事を丁寧にこなしている印象だ。
わたしはおうちに帰ることにした――エピローグというタイトルの重み
「わたしはおうちに帰ることにした」というタイトルそのものが、この作品の核心を語っている。連載「五時」の第三篇、しかもエピローグと銘打たれたこの一編は、単なる一エピソードではなく、積み重ねてきた関係の着地点を描くものだ。だからこそ「帰ることにした」という一人称の決意が、読み手の胸に静かに響く。何かが終わる、あるいは何かに区切りをつける――そうした機微を扱うのは山本直樹先生の得意とするところであり、盛り上がりだけで押し切らない筆致が、読後にじんわりとした余韻を残す。派手な展開よりも、心の動きの機微を追いたい読者にこそ刺さる構成になっている。
山本直樹先生が描く関係性の温度
本作の魅力は、キャラクター同士の距離感の描き方にある。訪ねてきた誰かと、迎える側の誰か。その間に流れる空気は決して熱狂的なものではなく、むしろ静かで、どこか気だるい親密さをたたえている。こうした温度感の演出は、感嘆符を連打するような勢いのある表現とは対極にあり、じっくりと画面を味わう読み方を読者に求めてくる。『田舎』でも見せてきた、日常と性が地続きになった感覚は本作でも健在で、シチュエーションそのものよりも、そこに至るまでの空気の積み重ねを楽しむタイプの作品だと言えるだろう。
連載完結を締めくくる一冊としての読みごたえ
第三篇にしてエピローグという位置づけは、これまでの連載を追ってきた読者への一つの回答でもある。積み上げてきた物語がどう着地するのかを見届ける読書体験は、単発作品にはない特別な満足感をもたらしてくれる。もちろん本作から読み始めても、その完成度の高い作画と構成によって十分に世界観に入り込める作りになっているが、できることなら連載を通して読み、この最終話にたどり着いてほしい一編だ。感想としては、静かな読了感の中に確かな余韻が残る、そんな読み味である。
こんな人におすすめの一冊
派手などんでん返しよりも、じわじわと積み重なる関係性の描写を味わいたい人。山本直樹先生特有の、生活感のあるリアルな空気の中で展開されるエロスを求める人。そして『田舎』をはじめとする過去作を読んで、その筆致のファンになった人には特におすすめしたい。連載の締めくくりとして描かれるエピローグだからこそ味わえる読後感を、ぜひこの機会に体験してほしい。

